「豊かな自然」というキャッチコピーで語られる宍粟市。

実際にそうだが、あるがままの自然を推すだけでなく、より市民の生活に溶けこませ、共に暮らしていくアプローチがとれば、他の市町村より抜き出た素敵な市になるのでないか。そのヒントが、持続可能生活を実践するオーストラリアのクリスタルウォーターズエコヴィレッジ1 (以下、CWVという)にあるように思う。今や世界各地に存在する『エコヴィレッジ』の先駆け的存在だ。

第一回目である前回は、僕がCWVに滞在するきっかけと現地に到着するまでを綴った。今回はその続きから。

もくじ

  • エコヴィレッジとは
  • パーマカルチャーとは
  • 本文
  • 注釈

本文に入る前に、エコヴィレッジとパーマカルチャーという言葉を、 初めて見聞きしたビューアーのためにそれらの簡単な説明をしたい。 以下の定義、説明は私がこれまで触れてきた文献から独自に集約と要約をしたものであることを お断りしておく。

■エコヴィレッジとは

社会や自然環境を再生するために、持続可能性の4つの側面(社会、文化、生態系、経済)すべてにおいて、地域住民の参加型プロセスによって、意識的に設計され、意図的に作られた伝統的コミュニティーである。自然豊かな地域で形成されることが多かったが、現在は都市においても形成されている。

■パーマカルチャーとは

ビル・モリソンが提唱した、パーマネントアグリカルチャーとパーマネントカルチャーの合成語。

自然の生態系の多様性、安定性、回復力を備えた農業生産性の高い生態系を意識的にデザインし、維持することと、景観と人々の調和のとれた統合、人々の食料、エネルギー、住居、その他の物質的・非物質的なニーズを持続可能な方法で提供することによって、安定した社会秩序を築くことを目的としている。


目覚まし時計をセットせずとも、起きなければならない時間よりも前に目が覚めた。その日も外は雨天も曇天も元から存在しないかのようなピーカンの晴天。

早々にホテルをチェックアウトし、CWVスタッフが送迎してくれる集合場所へと向かうため、再びセントラル駅にやって来た。昨晩には見られなかった通勤や通学のために駅構内を行き交う大勢のブリスベン市民。

朝一でメールをチェックすると昨晩打ったメールに返信があり、なんとCWV創設者のマックス自身が僕をピックアップしてくれるという。6番ホームからナンバー駅行きの電車の乗り込み、席につくなり、道すがらミルクバー2で買った、いかにも海外らしいギュッと詰まったパンとアーモンドミルクのカフェラテを朝食として流し込んだ。


電車が20~30分ほど走ると車窓の外には、いかにも世界でも国土面積が第6位、有数の農業大国オーストラリアといった景色がもう広がっていた。田舎の一言で形容してしまっても、やはり日本の田舎とは違う空間のゆとりと壮大さ、開放感がある。広い敷地でのんびりと草をはむ牛や羊たち、電車と競うように並走する馬たちの姿が見られた。


ランヅボロー駅で下車すると、次なる移動手段はバスになる。891線のバスの停留所に行き、停車場所と時刻表を確認したが僕が降りなければならないバス停名の記載がなかった。運行の本数も十何分おきの間隔から地方の町らしく1時間に2、3本の間隔になっていた。嗚呼、僕にとって海外を旅していてある種の興奮を覚える瞬間でもある。インターネットの網でもカバーしきれない、地元住民とその他少数の人しか知らない場所にやってきたという独占感や優越感にも似た興奮。


駅員や通りすがりの人に「あのバス停に来るバスはマレニーで停車しますか。」と尋ねまわり、「そうだ。」と確認がとれた。次のバスが来るまで約40分あったので、駅周辺を散策しようかとも思ったが、念のため断念し、辛抱強く待つことにした。


待っていても他に乗客とおぼしき人が長い時間僕の後ろに並ぶようなことはなかったが、次発のバスがやってきて、出発時刻に近づくとそれでも他の乗客がちらほら姿を現しだした。


最終的に乗客は僕を含めて6人。


たまたま席が近くになったおじさんに話しかけられ、CWVに行く旨を話した。おじさんは僕の2週間の滞在のための荷物の多さを見て、CWVに行くのだろうと踏み、しかも欧米人ではなくアジア人で行く人は珍しいとの好奇もあって僕に話かけてくれたらしい。マレニーにバスが近づいたら知らせると約束してくれた。


バスに揺られながら、僕を集合場所まで迎えに来てくれるCWV創始者のマックスについて想像を巡らせた。これまでの滞在準備のためのやりとりの中でも応対してくれたのは他のCWV運営者だったし、交わすメールにもマックスの署名は一度も無かった。

創始者というくらいのだから相当エキセントリックな人か、知性とカリスマ性の持ち主なのだろうとか、外見は髭がモジャモジャ、髪はドレットヘアのヒッピーかボヘミアンみたいなスタイルなのだろうとか、さもなければ、C.W.ニコルかヘミングウェイのような半袖にフィッシングベストを重ね、ショートパンツを履いた恰幅のよい熟年のおじさんなのだろうと、僕のこうあってほしいという願望が想像に強く混じった。

約束どおり僕に話しかけてくれたおじさんはバスがマレニーに到着したことを知らせてくれた。おじさんと運転手、残っていた他の乗客に笑顔で感謝の言葉を伝えてバスを降りた。約束したピックアップ時間まであと少し、指定された月極駐車場のようなやや広い空き地に向かうと、遠くにチャコール色の大型SUV車の前で腕組みをして僕の歩いてくる方向をじっと見つめる一人の男性がいた。


彼に近づくと目的の人物だということが徐々に確信に変わるのか、彼の表情が緩んでいくのが見てとれた。それにつられて僕の表情も緩んでいく。

そう、彼がマックスである。

■注釈

1. Home – Crystal Waters Eco Village

2. オーストラリアやニュージーランドで見かけられる郊外にある地元の雑貨店。似たような言葉に、タックショップやデリカテッセン、「デリ」などがある。ミルクバーは伝統的に、新聞やフィッシュ&チップス、ハンバーガーなどのファーストフードを購入する場所であり、ミルクシェイクやスナックを購入することもできる。最近のミルクバーではカフェが併設されているところもあり、地域住民の憩いの場となっている。ちなみに、僕のお気に入りのミルクバーはメルボルンにあるフォードハムズミルクバー。 Fordham’s Milk Bar


3. 国土の全体面積 77,412万ヘクタールのうち農地として活用されているのが 37,184万ヘクタール。主要な農産物はさとうきび、小麦、大麦。他にも牛肉、牛乳、羊肉、羊毛がある。特に羊毛の生産、輸出量は世界最大規模を誇る。また、オーストラリア南東部、南西部ではブドウの栽培が盛んで、それにともないワインの生産、輸出販売も積極的に行っている。

3 参考資料

2020年更新 オーストラリアの農林水産業概況 農林水産省