観光資源として「豊かな自然」というキャッチコピーで語られる宍粟市。

実際にそうだが、あるがままの自然を推すだけでなく、
より市民の生活に溶けこませ、共に暮らしていくアプローチをとれば、
他の市町村より抜き出た素敵な市になるのでないか。


そのヒントが、持続可能生活を実践するオーストラリアのクリスタルウォーターズエコヴィレッジ1 (以下、CWVという)にあるように思う。今や世界各地に存在する『エコヴィレッジ』の先駆け的存在だ。

もし誰かが僕のCWV滞在の記録を読んで、
新しいインスピレーションが吹きこんできたり、
気づきを得て実際にアクションを起こすきっかけになればこれ幸い。

もくじ

  • エコヴィレッジとは
  • パーマカルチャーとは
  • 本文
  • 注釈

本文に入る前に、エコヴィレッジとパーマカルチャーという言葉を
初めて見聞きしたビューアーのためにそれらの簡単な説明をしたい。


以下の定義、説明は私がこれまで触れてきた文献から独自に
集約と要約をしたものであることをお断りしておく。



■エコヴィレッジとは

社会や自然環境を再生するために、持続可能性の4つの側面(社会、文化、生態系、経済)すべてにおいて、地域住民の参加型プロセスによって、意識的に設計され、意図的に作られた伝統的コミュニティーである。自然豊かな地域で形成されることが多かったが、現在は都市においても形成されている。

■パーマカルチャーとは

ビル・モリソンが提唱した、パーマネントアグリカルチャーとパーマネントカルチャーの合成語。自然の生態系の多様性、安定性、回復力を備えた農業生産性の高い生態系を意識的にデザインし、維持することと、景観と人々の調和のとれた統合、人々の食料、エネルギー、住居、その他の物質的・非物質的なニーズを持続可能な方法で提供することによって、安定した社会秩序を築くことを目的としている。



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月、北半球と南半球とで季節が真逆の日本とオーストラリアの気温差にくらくらしながら、
目指すCWVから最寄りのブリスベン空港に降り立った。

到着したのは現地時間の19時。
空港からCWVまでは車や電車、バスなどの公共交通機関を使って2時間ほどだが、
その日はブリスベン市内のホテルに一泊して、翌朝CWVに向かうことにした。


空港から市内へ向かう電車での移動中、
頭には「彼らがカルト集団や過激セクトだったらどうしよう。」だとか

「出ていけや帰れと言われないだろうか。」といった不安が、
背中には2週間分の荷物が重くのしかかる。

滞在するにあたって事前にCWV運営者とはスカイプで自己紹介を交わし、
彼らから送られてきたテキストブックを通読し、
こちらからは読んだレポートを送るといったやりとりを幾度としていたので、
おおよそCWVがどのようなところなのか、彼らがどんな人たちなのかは把握していたにもかかわらずだ。

しかもタイミングが最悪なことに、行きの機内でFBIから
テロを行う過激環境保全集団に潜入し、壊滅するよう命じられた
民間女性スパイを描いたサスペンス映画を観てしまったのだ。

そもそもなぜ僕がCWVに滞在することになったのか。
もともと日本の文化や生活様式とは違う、代替可能なそれらには興味はあった。
だから、その年はイギリスのメノナイトかアメリカのアーミッシュのコミュニティーに
滞在する準備を進めていた。


本来であれば、農業に汗をかき、修道女が作るようなお菓子と素朴な西洋料理を食べ、
蝋燭や裸電球の明かりの下で読書するような
18、19世紀の西洋の生活様式と時の流れを謳歌しているはずだった。

しかし、現在世界規模で掲げられるSDGsの前身とも言える「持続可能な生活」
というコンセプトと運動が日本でも散見されるようになっていた当時の社会情勢と
他人にその計画を話したが最後、人のご縁が絡まり糸となって、
僕をオーストラリアのCWV滞在にまでたぐり寄せた。


そうこうしているうちに電車は市内セントラル駅に到着し、ホテルまで向かう途中スーパーに寄って
「明日からは体に良い食事が続くのだから。」と自分に言い訳をし、
オーストラリアの最狂チョコレートスナックTim Tamの日本では見かけないフレーバー全部と
オーストリアのビールVictoria Bitterをたんまりと買いこんだ。


ホテルにチェックインし、部屋に自分の荷物と買い込んだものを置いて
少しホテル周辺をブラブラすることにした。


比較的大きな公園を見つけ、薄暗い中に見つけたベンチに腰掛け、
ここに来るまでに見た、残業しているのかまだ灯りが点いた階がいくつか見うけられる高層ビル、
携帯電話で話しながら歩く市民、高速で切った風を僕に叩きつける自動車、
スポットライトを浴びた、舞台俳優のように暗闇の中できらびやかに浮かびあがる
ハイブランドの商品が並べられたブティックのショーウィンドウを思い出しながら、
明日からのCWVでの日々を想像してみる。駄目だ、疲れているせいか全く想像できない。


自室に戻り、Tim Tamをベッドの上で食い散らかし、
甘くなった口の中を洗い流すためのVictoria Bitterを片手に、
CWV運営者に無事ブリスベンに到着したことを知らせるメールを打った。


明日に備え、というよりも打ったメールの返事も確認しないまま、
落ちるようにその日は眠りに就いた。

注釈


Crystal Waters Eco Village


⒉  アメリカ、オレゴン州ポートランドで設立されたNorthwest Earth Instituteが発行、販売している。Northwest Earth Instituteは、人々を地球のために責任を持てるよう促すことを使命に、共有されるより良い未来社会の創造のため、個人、学校、活動団体、企業を繋ぎ、様々な教育と支援を行っている機関。設立から25年以上という歴史をもつ。



Northwest Earth Institute


⒊  16世紀のプロテスタント宗教改革の時代に、ローマ・カトリック教会から分離して設立されたアナバプティスト(再洗礼)運動に由来する宗教・文化グループである。メノナイトの名は運動の指導者メノ・シモンズからとられた。特に保守的で厳格なグループは世界中でコロニーを結成し、現代の科学技術の利器に頼らず、19世紀の質素で素朴な生活を送っている。


メノナイトとアナバプティスト教会が起源という点で共通している。アーミッシュで最初にアメリカに移住した人々は、ヨーロッパでの宗教的迫害から逃れ、農地を求めて18世紀初頭に到着した。アーミッシュという名はスイス人牧師ヤコブ・アマンの名前に由来する。彼らもまたメノナイトと同じく農耕や牧畜の自給自足の生活スタイルを現在も維持している。


3,4 参考文献
『An Introduction to Mennonite History: A Popular History of the Anabaptists and the Mennonites』

コーネリアス・J・ダイク 著 ヘラルドピーアール 出版 (1993)

『アーミッシュの謎―宗教・社会・生活』 ドナルド・B・クレイビル 著 杉原利治・大藪千穂 訳 論創社 出版 (1996)



⒌ オーストラリアでは、ヘルススターレイティングといって、輸入品を除く加工食品の多くにカロリー、脂質、砂糖、塩の他に食物繊維や葉酸の含有量から総合的に健康に良い食品かを星マーク5つで評価する表示がなされている。その中でもTim Tamは5つ星中0.5星。